私の過去の経歴について問い合わせいただくことがあります。
現在は陸上プラントなど扱っているので、新しくお会いする方へ船のお話しをすると少しビックリされます。
経歴については簡単にまとめていますので自己紹介のページをご覧ください。
補足としてページを見てもらえると造船所勤務時代に担当した船を紹介できるものと思い掲載させていただきます。
どの船も一朝一夕とはいかず、各分野のスペシャリストが力を合わせて、寄り添いながら造りあげました。
担当した船は他にもありますが、全ての船に想い出があります。
構造だけではなく艤装や塗装、運用なども含めて幅広く理解を深め都度最善の構造を提供してきました。
今の私があるのは造船所時代に経験させていただいた多くの船があるからです。
4,500TEUコンテナ「MOL ENCORE」
初めて担当した一般商船です。商船三井様とお付き合いしたのもこの船が初めてでした。
ほぼ設計が終わっていた段階で引き継ぎ、現場対応を行いながら検討を行い改正図を作成が主業務でした。
当時のIHIMUではそれほど大きくない4,500TEUパナマックスですが、燃料タンクの配置が独特だったために、燃料液位による振動応答変化に対する検証を基本計画時から行い、実確認のために太平洋横断をしながら振動計測を行いました。3日ほど徹夜した記憶は今でも忘れません。
短い期間での4隻連続建造で忙しい毎日を過ごしました。
就航後に中国造船所へ出向き、トラブル対応などを経験したことで後の設計業務に大きく影響した船です。
この船を担当したからこそNK規則や社内基準を読込み理解し、その後の船に対してお客様への対応、現場への指示方法、社内基準へのフィードバックなど積極的に行動できました。
大型巡視船「きそ」
過去に巡視船の設計には携わりましたが、自分が担当した最初の巡視船です。本船は他社建造船のリピート船で建造会社と連携して図面を編集し建造方法を見直し、既存船の不具合対応を反映するなど設計業務以外での動きが非常に大変でした。
保安庁の規則、JG(国土交通省)の規則それぞれを複合的に満足するように設計することも経験し、巡視船に対する設計手法を自分の中で確立しました。
海上運転では高速運転の中、夜間の甲板に出て振動計測を行い「死ぬかも」と思いながら奮闘したことも良い思い出です。
就航後も損傷トラブルが続きましたが、1番船建造会社や修繕ヤードと協力し対応しました。高速船の難しさを思い知らされましたが、構造の泣き所もしっかりと学習しました。
ヘリコプター搭載型護衛艦「ひゅうが」
当時は軽空母と称され大きな話題となった護衛艦です。主担当ではありませんが、課内中堅として初期計画から関わらせていただきました。
この船では鋳物に関して特に苦労しました。護衛艦は船首部のアンカー収納用ベルマウスが独特です。配置と機能は他の船には無い要求がありますので設計から模型テスト、実際の鋳込みから検査まで全てにおいて調整を図り対応しました。
この経験から沢山の方々と、各々が持つ力を最大限に発揮する協力関係を深く築けたことが最大の成果だったと感じます。この関係は10年以上経っても続いています。
東京都ドラグサクション浚渫船「海竜」
浚渫船という特殊な船を担当させてもらいました。海底の砂を吸引して貯める泥槽やポンプを配置する大きなポンプ室、Zペラとユニバーサルジョイントシャフトなど他の船にはない装置が沢山ありました。
経験した船の中では小さく、試運転時は大きく揺れて気持ち悪くなったこともありました。
本船は就航後も毎年メンテナンスで工場に入ってくれ、自分で設計した「構造の泣きどころ」を確認することが習慣になっていましたが損傷していることはありませんでした。
東京都の船ですので、普段でも目にすることができます。こういった船は達成感の継続があります。
グラブ式浚渫船「第7金剛」
この船も浚渫船ですが、非自航でクレーンを装備し、スパッドと呼ばれる海底への固定杭を有した箱船です。
過酷な海上作業を行うために丈夫な船とすることを第一の目的として設計しました。
既存船の仕組みを踏襲する形でしたが年月が経っているために再現ではなく進化させる必要がありました。スパッドも長くなり製造も少し難しくなりました。スパッドを支える櫓も昇降階段や作業FLATとの関係、基部のピン構造など検討項目が沢山ありました。
また、船級規則を適用しないために居住空間をある程度快適に設計できましたので、その空間を損なわない構造設計も心がけました。
たまに近くの海で見かけることがり、子供にも自慢できる船となりました。
大型巡視船「あきつしま」
設計担当として最も過酷で達成感のあった船です。平成元年に建造された「しきしま」を踏襲した巡視船ですが、全てにおいて新設計となりました。
(寂しい話しですが、2024年4月にしきしまは退役となりました)
多くは機密情報ですので紹介はできませんが、後に建造された同型巡視船も本船が建造されたからこそだと思います。そしてこのシリーズが私達国民を知らないところで様々な脅威から守ってくれています。
構造強度も振動も構造屋として全てを出し切った船です。計算書も数百ページにもなりましたが、1ページ毎に意味を持たせ何度も確認を行いました。扉の開口一つとっても私の想いを込めて設計しています。
本当に本当に多くの方々が努力いただき、就航してからも様々なイベントに対応するために進化を続けた船です。
私の設計した船で初めて損傷を起こした船です。通路のブラケットの端部から亀裂を発生させてしまいました。比較的容易に補強を行うことができましたの大事には至りませんでしたが、縦曲げ強度には気をつけていたのに悔しい思いをしました。
1,000トン型巡視船「たらま」「いけま」
本船も他社建造船の後続船です。しかし主機やプロペラが異なり機関室は新設計となりました。また、起振源が異なることから振動対策も新たに打ち立てることになりました。振動は機関室だけでなく船全体に及ぶため、結局全ての設計を見直し確認することになりました。2隻同時建造でトラブルも2倍とバタバタしたことを覚えています。
本シリーズはこの後も「もとぶ」「つるが」と4隻を担当させていただき、こちらも主機やプロペラ、主要装備も変更となったために現場負担を最小限に抑える設計変更対応を行いました。
また、他の建造所の設計担当や保安庁工務官とも連携を図り一体感を感じられた想い出深い船です。
商船三井フェリー さんふらわあ「ふらの」「さっぽろ」
「あきつしま」と並び記憶に残る担当船であるフェリーの設計担当でした。
大洗港と苫小牧港を結ぶ既存大型フェリーの代替えとして計画されました。造船所の最新技術を駆使して燃費を大幅に改善させるハイブリッドCRP 推進システムを採用しました。2種のプロペラが前後に配置され逆回転に回ることで推進時のロスを軽減させるものです。最近では扇風機などにも使われています。
従来のフェリーは2軸で左右にプロペラを配置していることが一般的でしたが、本船は中央のみに配置されています。このプロペラによる振動対策は非常に複雑で様々な起振次数を考慮しなければならず、更に車両積載有無による喫水変化も考慮する必要がありFEM(有限要素法)で日々解析を行いました。
客室も豪華な仕様ですので内装を邪魔しない構造とするようにデザイナーと協議を重ねて快適な船旅ができる素晴らしい船となりました。
試運転では新しい技術の確認のために何度も徹夜して確認を行い、造船マン全員の底力を改めて感じました。
この船も自分自身が乗船できるため、いつまでも忘れることのできない船となりました。
2回目で最後となる損傷もこの船でした。仕様変更でちょっと無理した部位の溶接部に亀裂損傷が発生しましたが、簡単は補強で対応できる程度でした。自分が設計した損傷はこの2回だけだっと記憶しています。
水産庁漁業取締船「鳳翔丸」
水産庁の船は初めて経験させていただきましたが、保安庁巡視船を多く経験しているため構造的には自信がありました。
水産庁で初めてとなるバラスト処理装置を設ける仕様でしたので、選定から配置、運用を検討する中で様々な配置や系統の決定が遅れたことが要因で何度も設計変更を要しました。構造屋としては艤装機能を最大限に活かすために強度を担保して要望に応えることが重要ですが、私の得意分野でしたので何とか協力できたと思います。
また背丈の高い後部マストを配置しているので、振動を考慮しながら他設計担当や製作所と何度も調整を重ねて機能を満足し、安全な構造を設計しました。
水産庁は警察ではありませんが、脅威と隣合わせの任務を遂行しています。壊れない構造だけでなく、『壊されない構造』としても意識して強固な構造とすることも要求されました。これまでの経験を十分に活かし、メンテナンス性も考慮した構造様式を提案することができました。
気象庁海洋気象観測船「凌風丸」
先日紹介しました「凌風丸」ですが、私が担当した船の中でも少し特殊な船です。
高出力で追いかけっこをしない、武器を持たないなど船の性能としては穏やかといった感じでした。
しかし、観測と研究を行うために低速や定点維持など特殊な操船技術を必要とし、CTD(電気伝導度水温水深計)を安全に海中に沈めるためのクレーンを設けるなど総合的に難しい船でした。
既存船の使いやすさを維持しながら新しい船として利便性を向上するために多くの設計検証を行いました。水産庁の職員の方々に運用方法を何度も教わり、模型試験を行ったりビデオを繰り返し見たりしながら艤装設計の要望に添えるような構造設計を心がけました。
本船の居住区には水性塗料を使用しています。人体に害の少ない塗料ですが油性と異なり難しい施工ですのでメーカー選定テストを行ったり現業と事前検討を繰り返すなど面白い経験でした。
本船の機能設計が終る時期に造船所を退職したので出航を見守ることはできませんでしたが、日々のニュースで天気予報など気象に関する情報を見る度に思い出す船です。
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