地上波で映画「タイタニック」が放送されており、録画して子供と一緒に観ました。
私が造船所に就職して直ぐの頃に上映されたもので、当時も友人と映画館で観ました。”あるある”ですが、職業に関係するシーンにはストーリーとは別の関心を持って観てしまいます。
今回は登場した主任設計技師の「トーマス・アンドリューズ」が気になりました。映画の中では自身が設計した船の最終確認としてタイタニックの処女航海に乗船していました。我々も処女航海に技師として乗船することもあり、客船にはお客様に混じって実際の使われ方の中で様々な確認を行うことがあります。私もコンテナ船に乗船して太平洋で徹夜で振動計測したり、フェリーに乗船して振動計測を行ったり。
さて、アンドリューズ氏の経歴をインターネットで検索すると16歳で職に付き、28歳で造船責任者になったとされています。その6年後、代表取締役となりオリンピック号の建造計画が決まりました。この時34歳ということになります。そして、タイタニックの処女航海は39歳。驚異的なスピードで建造されたことが分かります。
人柄もよく、社内でも大変尊敬された人材だったそうです。タイタニックが氷山に接触し沈没し、彼は造船技師としてともに海に沈んだとされています。とても残念な人材を失ったことになりました。
アンドリューズ氏は船の細部まで把握しており、氷山と接触し浸水した際にも沈没することを予測できたとあります。設計技師としてそこまで自身が担当した船を把握できることは大変素晴らしいことだと思います。
現代でこれほどの船を建造する際、プロジェクトチームが編成され設計PM(プロジェクト・マネジャー)がチームの旗振りを行います。ただし、PMが細部まで把握することは大変難しく、実質は各パート(構造、艤装、機関、電気など)の設計技師がそれぞれの担当範囲を責任を持ってまとめ上げます。よって、誰か一人が船の細部までを把握することは現実的には難しくあります。
造船設計技師には免許は必要ありません。一般商船の世界では船級協会などの実績を踏まえた理論的な規則があり、これによって設計を行えば沈没することはないでしょう。しかし、客船や作業船においては必ずしも規則に沿って設計できる訳ではなく、設計者の培われた経験と設計センス、そして船を創りたいと思う強い気持ちによって船の品質は左右されます。アンドリューズ氏は全てを備えた人材だったのでしょう。
私自身も構造屋ですが、積極的に他パートにも関わるようにしています。何故ならこのような船は構造がメインではなく、他パートがメインになることが多くそれを活かせる構造が必要だからです。船のコンセプト(タイタニックであればサイズやスピード、豪華さなど)を全ての設計技師が成立させるために他パートと妥協点を見出しながらアイデアを出し合う姿勢が必要です。現役時代には比較的そのような仲間と仕事ができたため、様々な経験値を積むことができました。
アンドリューズ氏のような人材が必ずしも造船所に居るとは限りませんし、船主側にも居るとも限りません。そのような場合はコンサルタント会社などの経験豊富な人材に支援を依頼することも大事だと思います。私も彼ほどの実力があるとは言い切れませんが、構造屋でありながら設計技師としてはオールラウンダーの部類にありますので、ご心配ごとがありましたらお声掛けください。
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